多面体・宇能鴻一郎

kuronekokann2005-09-29

黒猫館館長「影姫よ、わたしがここに来るのも久しぶりだな。」
影姫「そうですね。貴方。」
館長「まったくネット上で黒猫館を運営するというのも大変なことだ。」
影姫「そのとおりですね。わたしも地下六階の運営が大変です。」
館長「さて。大変、大変と言っているだけでも仕様があるまい。
本日の話題はこの本だ。宇能鴻一郎切腹願望』徳間書店。」
影姫「この本は、・・・あの『ですます調』の方の本ですか?」
館長「影姫よ。おまえもSMの専門家を自称するにしては底が浅いな。
宇能鴻一郎はそんな単純な作家ではない。」
影姫「どういうことです。(ムカ)」
館長「まあ、そう怒るな。大人げないぞ。」
影姫「そうですね。」
館長「まず宇能氏は日本史の研究家だ。それも古代日本史だな。
『絢爛たる暗黒』(新潮社)によって独自の古代日本史についての見解
を出している。」
影姫「そういえば宇能氏は東大大学院卒でしたね。」
館長「次に純文学作家としての側面がある。『鯨神』(文藝春秋)で
芥川賞を受賞しているのは有名な話だ。」
影姫「『鯨神』は映画にもなりましたね。」
館長「そしておなじみ『ですます調』作家としての宇能氏だ。」
影姫「これは有名ですね。」
館長「しかし宇能氏には純文学からですます調に移行するまでの
短期間にもうひとつの顔がある。」
影姫「それはなんですか。興味深いですね。」
館長「栗本慎一郎が何かの本で宇能鴻一郎だけは笑えない、と言っていた
ことを記憶している。恐らくその『笑えない部分』とは幻想文学作家
としての宇能鴻一郎を指しているのではないか。」
影姫「宇能さんが幻想文学作家ですか?」
館長「まさにそのとおりだ。『魔楽』『お菓子の家の魔女』『血の聖壇』
など昨今の人気作家である赤江瀑をより強烈にしたような密度の高い
怪奇幻想耽美的作品を矢つぎばやに発表していた時期があるのだ。
この『切腹願望』もその系統の作品のひとつだ。」
影姫「『切腹願望』とはなんとも興味深い題名ですね。」
館長「うむ、、、この表題作は『切腹』の魅力にとりつかれた青年が
本当に切腹するまでを極めて濃厚なタッチで描いた異色作だ。」
影姫「わたしも読んでみたくなってきました。」
館長「しかしわたしとしてはこの本の巻末の中篇「リソペディオンの呪い」
のほうが面白いな。」
影姫「なにやら難しい外国語ですね。」
館長「リソペディオンとは『石児』、つまり奇形児の一種だ。これはその石児が
辿る凄惨な運命が描かれた怪作だ。」
影姫「貴方もそういうお話がお好きですね。」
館長「馬鹿者。余計なことを言うな。とにかくこの一冊で宇野鴻一郎がいかに
『凄い』作家であるのか知ることができるだろう。」
影姫「なるほどですね。でもこの系統の作品は最近では読めなくなっているのでは
ないですか?」
館長「集英社文庫の『耽美小説傑作選』に一篇だけ「公衆便所の聖者」が入って
いる。興味のあるひとはそれをまず読んでみるのがいいだろう。」
影姫「今度ブックオフで探してみますね。・・・ところで貴方、土曜日でも
ないのにこういう話題はよろしいのですか?お子さんも見ているかも知れない
ブログですよ。」
館長「・・・・黒猫館は・・・教育上・・・」
影姫「なんですの?」
館長「良い、、、ように努力しているHPだ・・・・」
影姫「うまくまとめましたね。くすくす。」

というわけで。
宇野鴻一郎『切腹願望』(徳間書店)のレヴューでした。

注>『切腹願望』は運がよければ3桁の値段で古本屋さんでゲットできます。