村上春樹における悪の問題
村上春樹を読む時に一番気になるのが「悪」についての問題である。
「血は流されなくてはならない。わたしはナイフを研ぎ、犬の喉をどこか
で切らなくてはいけない。」『スプートニクの恋人』(講談社・206p)
のようにヒトが必然的に犯してしまう「悪」の問題に最近の村上春樹は
肉迫しているようだ。
これは最新作『海辺のカフカ』(新潮社)でも顕著である。「しかし
それは仕方のないことなんだ。そこには痛みがなくてはならない。それ
が決まりなんだ。」(上巻・248p)
「悪」が世界に「なくてはならない」と強調する村上春樹にわたしは
不気味なものを感じる。無論これは「悪の奨励」ではないだろう。
「悪が世界に存在することを認めよ」と読者に問いかけているようである。
世界に顕在する「悪」とどうつきあってゆくのか、それが最近の村上春樹
のテーマであるように思われる。
初期三部作と呼ばれる三作の二作目『1972年のピンボール』(講談社)
にも早くもこの問題の萌芽は現れている。
「世の中にはそんな風な理由のない悪意が山とあるんだよ。あたしにも
理解できない、あんたにも理解できない、でもそれは確かに存在している
んだ。取り囲まれているって言ったほうがいいかもしれないね。」(92p)
村上春樹はその初期から「悪」の問題について考えてきた作家である
ようだ。今後彼がどのように独自の「悪」の問題についての解答を出す
のか期待したい。
うる星やつら ビューティフル・ドリーマー2
ラム「あ!うちらのカレンダーだっちゃ!」
あたる「お〜1987年度か。そういえば今は1987年だったかな?ん??」
メガネ「21世紀に向かってうる星やつらは驀進するぞーーー!!!」
チビ「は・・はいー」
パーマ「おー」
こたつ猫「むぅ・・・・・」
・・・・・
サクラ「おかしい・・・現在が1987年?わたしは90年代をとおり
過ぎてもう21世紀に入っていると思っていたのだが。しのぶ、そなた
はどう思う?」
しのぶ「わたしもなんか違和感感じます。」
サクラ「これはもしや・・・アイツの再来か・・・?」
あたる「なにやってるんですかー?サクラさん、しのぶ。
女ふたりで寂しいんじゃないですかー。うしゃうしゃ。」
サクラ「おぬし・・・なにか知っておるな。」
あたる「おーーーー。なにかじゃなくて全部知ってますよ。」
サクラ「なんじゃ!それは!!言ってみい!!」
あたる「・・・・ぼくらは永遠に1990年には達しないんですよ・・・
つまり1989年が終わると自動的に1980年に蒸し返される、
永遠の80年代の申し子なんですよ。」
サクラ「な、、、なんじゃと??」
メガネ「60年安保の敗北、それゆえにわれわれは80年安保を起こした。
われらが暗黒神「オシー魔」の意思によって。そしてその存在の革命は
ついに成功した。」
サクラ「『オシー魔』じゃと!!おのれ!!新たな妖怪か!!そいつに
たぶらかされていることにきずけい!!皆よ!」
ラム「嫌だっちゃ」
サクラ「な・・ラム、おぬし、、、」
ラム「うち、ダーリンやメガネさんたちとずうっと一緒に暮していきたいっちゃ。
それがうちの夢だっちゃ。」
サクラ「ええい!!1984年度公開映画『ビューティフル・ドリーマー』の
蒸し返しか!!皆眼をさませい!!そして正体あらわせ!!夢邪鬼!さっきからそこに
おるのはわかっておるぞ!」
(ぼわーーーーーん)
夢邪鬼「姐さん、偉い久しぶりだったすなー、、、でもな、わいは違うなん。
わいがこんなことやってるんじゃない。やってるんは「オシー魔」やて。」
サクラ「では『オシー魔』とは何者じゃ?答えよ。」
夢邪鬼「わしら友引町の住人を作った暗黒神だす。」
サクラ「神か、、、じゃがそれは『邪まな神』、つまり滅ぼすべき神というわけか!」
夢邪鬼「無理だす。友引町の住人は誰もオシー魔を滅ぼしたいとは思ってまへん。
むしろ信仰の対象だす。」
あたる「そういうこった。」
メガネ「結論はでたな。神が人間を作ったのではない。人間が神を作ったのだ。」
ラム「それじゃあ、サクラさん、バイチャ、だっちゃ!」
サクラ「おまえら・・・・・ナニィ・・・」
チェリー「妖怪退散!!」
サクラ「叔父上!」
チェリー「危険じゃ!此処はもう危険な異空間じゃ!サクラ、次元を
超えて逃亡するぞ!!そうでなくてはわれらの存在そのものが消される!!」
サクラ「ウム!わかった!!ではゆくぞ!!!」
(消滅)
ラム・あたる・メガネ「邪魔者は消えたな・・・・さあ今日も一日ガンバロー!!」
全員「わーーーーはっはっははーーーーーーーーー!!!」
というわけで。
1987年度版『うる星やつら カレンダー』のレビューでした。
(カレンダーはうる星やつらファンクラブ制作。現在ではかなり
レアですが非常にたまにネットオークッションに出品されたりします。)
多面体・宇能鴻一郎
黒猫館館長「影姫よ、わたしがここに来るのも久しぶりだな。」
影姫「そうですね。貴方。」
館長「まったくネット上で黒猫館を運営するというのも大変なことだ。」
影姫「そのとおりですね。わたしも地下六階の運営が大変です。」
館長「さて。大変、大変と言っているだけでも仕様があるまい。
本日の話題はこの本だ。宇能鴻一郎『切腹願望』徳間書店。」
影姫「この本は、・・・あの『ですます調』の方の本ですか?」
館長「影姫よ。おまえもSMの専門家を自称するにしては底が浅いな。
宇能鴻一郎はそんな単純な作家ではない。」
影姫「どういうことです。(ムカ)」
館長「まあ、そう怒るな。大人げないぞ。」
影姫「そうですね。」
館長「まず宇能氏は日本史の研究家だ。それも古代日本史だな。
『絢爛たる暗黒』(新潮社)によって独自の古代日本史についての見解
を出している。」
影姫「そういえば宇能氏は東大大学院卒でしたね。」
館長「次に純文学作家としての側面がある。『鯨神』(文藝春秋)で
芥川賞を受賞しているのは有名な話だ。」
影姫「『鯨神』は映画にもなりましたね。」
館長「そしておなじみ『ですます調』作家としての宇能氏だ。」
影姫「これは有名ですね。」
館長「しかし宇能氏には純文学からですます調に移行するまでの
短期間にもうひとつの顔がある。」
影姫「それはなんですか。興味深いですね。」
館長「栗本慎一郎が何かの本で宇能鴻一郎だけは笑えない、と言っていた
ことを記憶している。恐らくその『笑えない部分』とは幻想文学作家
としての宇能鴻一郎を指しているのではないか。」
影姫「宇能さんが幻想文学作家ですか?」
館長「まさにそのとおりだ。『魔楽』『お菓子の家の魔女』『血の聖壇』
など昨今の人気作家である赤江瀑をより強烈にしたような密度の高い
怪奇幻想耽美的作品を矢つぎばやに発表していた時期があるのだ。
この『切腹願望』もその系統の作品のひとつだ。」
影姫「『切腹願望』とはなんとも興味深い題名ですね。」
館長「うむ、、、この表題作は『切腹』の魅力にとりつかれた青年が
本当に切腹するまでを極めて濃厚なタッチで描いた異色作だ。」
影姫「わたしも読んでみたくなってきました。」
館長「しかしわたしとしてはこの本の巻末の中篇「リソペディオンの呪い」
のほうが面白いな。」
影姫「なにやら難しい外国語ですね。」
館長「リソペディオンとは『石児』、つまり奇形児の一種だ。これはその石児が
辿る凄惨な運命が描かれた怪作だ。」
影姫「貴方もそういうお話がお好きですね。」
館長「馬鹿者。余計なことを言うな。とにかくこの一冊で宇野鴻一郎がいかに
『凄い』作家であるのか知ることができるだろう。」
影姫「なるほどですね。でもこの系統の作品は最近では読めなくなっているのでは
ないですか?」
館長「集英社文庫の『耽美小説傑作選』に一篇だけ「公衆便所の聖者」が入って
いる。興味のあるひとはそれをまず読んでみるのがいいだろう。」
影姫「今度ブックオフで探してみますね。・・・ところで貴方、土曜日でも
ないのにこういう話題はよろしいのですか?お子さんも見ているかも知れない
ブログですよ。」
館長「・・・・黒猫館は・・・教育上・・・」
影姫「なんですの?」
館長「良い、、、ように努力しているHPだ・・・・」
影姫「うまくまとめましたね。くすくす。」
というわけで。
宇野鴻一郎『切腹願望』(徳間書店)のレヴューでした。
注>『切腹願望』は運がよければ3桁の値段で古本屋さんでゲットできます。
復活!!黒猫館はてな出張所!!
「影姫」みなさん、おひさですね。
「光姫」わたしからも。
「影姫」ところでどうしてこんなに間があいてしまったのですか。光姫。
「光姫」わたしとくらやみ男爵の最終決戦の時期から途切れました。
日記どころではなかったんです。
「影姫」確かに地球が滅亡したらはてなも終わりでしょうからね。
「光姫」そういうことです。
「影姫」さて。今日のお題はなんですの?光姫。
「光姫」あんまり長い間留守にしてたのでなにを話したらよいのかわからなくなっています。
「影姫」ではわたしがお題をだします。いいですね?
「光姫」・・・変な話題でなかったら。
「影姫」心外な言葉ですね。まあいいです。
この本を御覧なさい。ペイネ『<ふたり>のポケット・ブック』。
「光姫」なんですの?この本は。
「影姫」レイモン・ペイネはフランスのヒトコマ漫画家です。
光姫、あなたも古本屋さんで良く見るんじゃなくて?『愛の本』とか。
「光姫」あ、その本ならたまにみます。ところでなぜ今ペイネですの?オネエ。
「影姫」この本の序文は串田孫一さんが書いています。
「光姫」串田孫一といえば「山」のひとですか?
「影姫」「山」のひとと思われているようですが実際は哲学者、詩人、エッセイスト
と多彩な顔を持つひとです。現代風に言えば「マルチライター」とでもいうのかしら?
しかし串田さんはつい先日、お亡くなりになられました。
「光姫」(合掌)最近、文筆家の方がどんどん亡くなります。
水上勉、斎藤史、多田智満子、矢川澄子、塚本邦雄、種村季弘、そして串田さんですか。・・・
「影姫」串田さんは「山」に託して人間の生き方を語る、そういうひとでした。
もう現代ではこのような個性の人はいないみたいですね。辻まこと、秋谷豊、
もうみんなお亡くなりになっています。
「光姫」ひとつの時代が終わった気がします。
「影姫」ひとつの時代とは『戦後』という時代でしょうね。昭和の残り香も
もう感じられなくなりましたね。
「光姫」平成はこれからどうなってゆくのか不安です。
「影姫」光姫。これからのことは考えなくても良いです。「来年のことを語れば
鬼が笑う」そう言いますからね。
「光姫」オネエ。そうですね。
「影姫」将来の心配をするより、ペイネのヒトコマ漫画を見てしみじみしていたほうが
身体にいいです。
「光姫」同感です。オネエ。
「影姫」では夜も遅いですね。今夜はこれで終わりです。お休みなさい。光姫。
「光姫」オネエ。その本わたしに貸してください。こころが休まる気がします。
「影姫」いいですわ。貴方の寝室に持ってゆきなさい。では電気けしますよ。
「光姫」はい。おやすみなさい。オネエ。
(消灯)
というわけで。
レイモン・ペイネ、串田孫一解説『<ふたり>のポケット・ブック』
(初版昭和37年・みすず書房)のレヴューでした。
森園みるく 週末ですから18禁
闇姫「こんばんは。真夜中のチャイルドたち」
ミステリアス・パートナー「ふふ・・しばらくだったな。閲覧者たちよ。」
闇姫「さて。ミステリアス・パートナー、今夜の御題はなんですの?」
ミステリアス・パートナー「レディース・コミックの大御所「森園みるくの『ボンデージ・
ファンタジー』(祥伝社)だ。」
闇姫「あら?この手の話題はこの館の館長夫人、「影姫さま」の担当ではなかったのですか?」
ミステリアス・パートナー「『影姫さま』は現在ご旅行中らしい。なんとも気楽なものよ。
黒猫館に迫りつつある危機も知らずにな。ふふ。」
闇姫「さて、『森園みるく』はいわずと知れたレディース・コミックの大御所ですね。
彼女が始めて『SM』を題材として書いた漫画がこの『ボンデージ・ファンタジー』ですね。」
ミステリアス・パートナー「みるく氏は後年、青年誌に『ビーハイブ』というなかなか
きわどいシーンもあるSM漫画を書いている。この『ボンデージ・ファンタジー』はその
魁だったのだな。」
闇姫「この『ボンデージ・ファンタジー』は主人公の女性がNY→東京→ロンドン→ベルリン
と旅しながら色々な『マゾ・フェチ男』と情事を重ねるというお話ですね。SM+観光
となんとも当世の女性の興味のツボを押さえたストーリーですね。」
ミステリアス・パートナー「NYとロンドンはいわずと知れたSMのメッカだろう。
しかしベルリンというのはどうなのだ?闇姫よ。」
闇姫「ドイツという地はザッヘル・マゾッホや『北欧ポルノ』の影響で「SMの盛んな地」
と考えられている風潮もあるようですが、実際はやはりなかなか保守的なお国柄故、
アメリカやイギリス程『実際の行為』まで及んでいる人は少ないようです。」
ミステリアス・パートナー「なるほど。『実際の行為』に及べないから妄想だけが
膨張してゆくというわけだな。童貞の心理と同じというわけか。ふふ。」
闇姫「しかし。ドイツ語の特異点のひとつに太陽が「女性名詞」で月が「男性名詞」である
というものがあります。アポロンが「太陽神」と称される南ヨーロッパとは対照的ですね。」
ミステリアス・パートナー「女性崇拝。あるいは強い女性。確かにドイツ人が考えそうな
話だ。」
闇姫「それ故、ドイツ人男性には『マゾ』が非常に多いそうですよ。ふふ。ドイツとは
まさに『マゾ』の本場。素敵な国ではありませんか?」
ミステリアス・パートナー「このダイアリーを読んでいる閲覧者のなかにも「男性M」は
かなりいるだろう。」
闇姫「そのとおりですわ。被虐の血を昂ぶらせているマゾヒスト男性たち。まずドイツに
行く前にこの『ボンデージ・ファンタジー』をお読みください。海外のSM事情の基礎的
な事項が学べますよ。」
ミステリアス・パートナー「ふふ。そしてその次のドイツに行くことだ。本場ドイツの
SMクラブは日本のものなど比べ物にならない程ハードらしいぞ。」
闇姫「飛び散る血糊。噴出するザーメン。垂れ流される糞尿。・・・そのような「地獄」
が待ってますよ。甘美で残酷な「地獄」が。そんな夢をみてお休みなさい。真夜中のチャイルド
たち。」
というわけで。
森園みるく『ボンデージ・ファンタジー』のレビューでした〜〜〜。
韮沢靖
影姫「光姫、こっちきなさい。」
光姫「なんですの?オネエ。・・・」
影姫「あら。なにを警戒してるのかしら?ハムスターみたいに縮こまって。」
光姫「また。。。変な話題じゃないでしょうね?・・・オネエ。」
影姫「『変な話題』とは心外ね。ところで貴方、フィギュアはお好きかしら?」
光姫「あ!大好きです!(突然明るい顔になる)フルタからでた『うる星やつら』
や『犬夜叉』のフィギュアは全部持ってます!!」
影姫「わたしはこの人のフィギュアに最近興味深々なんだけど。」
(と『デビルマン リスト』を差し出す。)
光姫「いかにもオネエらしいご趣味ですね。」
影姫「あら?どういう意味かしら?まあそんなことはどうでもいいわ。
わたしがこの「韮沢靖」というひとのフィギュアを見たのはもう5〜6年前
ですね。その頃、井上雅彦が編集した『異形コレクション』という文庫本のシリーズ
があってその第二巻『侵略』のカバーに韮沢氏のフィギュアを見たのが始めてですね。」
光姫「あの『マジンガーZ』の敵幹部「アシュラ男爵」みたいなやつですね。」
影姫「「アシュラ男爵」とは韮沢さんが可哀相よ。「21世紀のアンドロギュノス」
そう呼んだほうがいいんじゃなくて?わたしも一回ぐらいはあんな姿になってみたいわ。」
光姫「オネエ。また話が妖しい方向に・・・」
影姫「子供はこれだから嫌ですね。」
光姫「誰が子供ですの?」
影姫「そんなことより、韮沢さんのフィギュアの特徴はなんだと思います?光姫。」
光姫「なんとなくこう「ロックぽい」というか、そんな感じです。」
影姫「光姫。貴方意外と鋭いわね。韮沢さんは雑誌のインタビューで『アンダーグラウンド
なロックのイメージでフィギュアを造っている」と答えているわ。」
光姫「アンダーグラウンドなロックといえばオネエの好きな『マリス・ミゼル』ですか?」
影姫「ちょっと違うわね。韮沢さんのフィギュアのイメージは『マリス・ミゼル』より
『黒夢(現在「SADS」)』のイメージね。」
光姫「『黒夢』といえば「清春」というひとがボーカルやっているバンドですか?」
影姫「そのとおりですね。加納典明が撮影した『ナイフ』(清春写真集)(竹書房)
を貴方はみたことがあるのかしら。」
光姫「その本ならブックオフによく置いてあるからみたことがあります。なんというか
若い男性の骨ばった身体が印象に残っています。」
影姫「『骨ばった身体』とは清春さんが可哀相ですよ。男性的な凹凸に富んだ、しかし
決して『マッチョ』ではない、美しさとでも形容したらいいのかしら?」
光姫「そこら辺のことはオネエのご専門でありましょうから。」
影姫「つまり『マリス・ミゼル』が「ゴシック・ロリータ」だとしたら『黒夢』
は「ゴシック・パンク」と言ってもいいですね。「ゴシック・ロリータ」は女性的・
華麗、「ゴシック・パンク」は男性的・攻撃的、といえば的を射ているかしら。」
光姫「そういうことになりそうですね。」
影姫「韮沢さんのフィギュアからはこの「ゴシック・パンク」なイメージが横溢して
いますね。「デビルマン」(不動明)や「サタン」(飛鳥了)の造形を見ても今までの
フィギュアとは全く違うなにか危険なニュアンスが感じられます。」
光姫「「危険なニュアンス」とはまたオネエ好みのニュアンスですね。」
影姫「子供は黙ってらっしゃい。そんなことより、韮沢さんのフィギュア欲しいんだけど。
ほら、この「ギロチーナ」とか素敵だと思わない?」
光姫「古本の他にもフィギュアのコレクションですか?館長様にいつも厳しいことを
言っているオネエ、いいんですの?黒猫館の財政をこれ以上厳しくして?」
影姫「う・・・う・・・子供は・・・・」
光姫「なんですの?」
影姫「黙ってなくてもいいわ。・・・」
とうなだれる影姫。それを厳しい目つきで見下している光姫。」
というわけで〜。
韮沢靖作品集『デビルマン リスト』のレヴューでした〜〜。
カネゴンの日だまり
影姫「貴方、書庫を掃除していたら、こんな本がありました。」
黒猫館館長「これは「河出書房新社ものがたりむ」シリーズの中の一冊だな。
このシリーズは非常に質の高い作品が多かったと記憶している。」
影姫「どうもこの本は伝記のようですね。」
館長「そのとおりだ。この本は第一次怪獣ブーム(「ウルトラQ」〜「ウルトラセブン」)
の怪獣のぬいぐるみを製作した高山良策氏の小説仕立ての伝記ともいえる本だ。」
影姫「高山良策とはどんな人物ですの?」
館長「高山氏はもともと「戦争」や「水俣病」などを題材とした社会派の画家として
出発した人物だ。しかしさっぱり彼の絵は売れなかったらしい。」
影姫「売れない芸術家というものは今も昔も悲惨なものですね。」
館長「しかし高山氏はある時アルバイトでやっていた怪獣のぬいぐるみが円谷英二氏
に認められ、『ウルトラQ』の怪獣の造形の仕事を担当することになった。」
影姫「なるほど。「人生、至るところに青山あり」とはまさにこのことですね。」
館長「そのとおりだ。デザイン>成田亨、造形>高山良策のコンビの怪獣は今日では
美術界から「シュールレアリスムの造形物」と評価されるほどだ。」
影姫「昔と比べれば隔世の感ありですね。」
館長「高山氏はこの本の中でこう言っている。『怪獣というものは悲しい
生き物であって、形は恐ろしいけれど、よくよくながめると哀しみとあいきょうが同居
しているんだ』と。」
影姫「確かにわたしも昔TVで観ましたよ。「ジャミラ」とか「ウー」とか悲しい怪獣
が結構多かった気がします。」
館長「わたしがウルトラ怪獣で最も好きな「カネゴン」についても高山氏はこう
コメントしている。『こいつは僕の怪獣の中でも変わったやつでね。ユーモラスだが
経済戦争で犠牲になった人間がテーマだったのかもしれない』。」
影姫「なるほどですね。カネゴンは確かにユーモラスですがどこか暗い影を感じる怪獣
でしたからね。」
館長「1982年高山氏は順天堂病院で息をひきとることになる。享年65歳。
短い一生だったとわたしは思う。しかし高山氏は「怪獣同好会」という子供から
大人まで様々な年齢層の人間たちの会に囲まれながら眠るように息をひきとったという。
おそらくこの時、高山氏は『幸福』であったのではないだろうか?」
影姫「確かに。子供たちにまで惜しまれて息をひきとることのできる人物などそうは
いないでしょうからね。」
館長「この『カネゴンの日だまり』は最後に高山夫人の言葉で締めくくられている。
「怪獣とそれを愛してくれた子供たちと出会ったことが、高山の人生の最良の出来事だ
ったでしょう。それは絵描きとして絵がいっぱい売れることより、ずっと価値があったと
信じています。」と」
影姫「なるほどですね。」
館長「わたしも同感だ。「売れない画家」として生きるより「子供に愛された怪獣おじさん
」として生きた自分の人生を高山氏はきっとあの世で誇りに思っているだろう。」
影姫「同感ですわ。貴方。」
館長「では高山氏に敬意を表して一篇の詩を捧げよう。」
『宇宙は平和のために
開かれるべき扉であったのか
いたましい
美しい言葉をもって
彼を飾るな
または何の石碑も
そして彫り付けられた銘板も』(松本賀久子『ジャミラ希念日』(風塵社)より引用。)
館長「この詩は宇宙で怪物化して地球に帰ってきて死んでいった悲しい怪獣「ジャミラ」
に捧げられたものだ。」
影姫「悲しい詩ですね。ところで・・・この本に『帯』がついていないのはなんとも
「痛い」ですね。」
館長「馬鹿者・・・それを言うな・・・(なぜか額から油汗を流す館長)」
というわけで。
江宮隆之『カネゴンの日だまり』(河出書房新社)のレビューでした〜!!
(おしまい)